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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「なんという! すりゃ一大事じゃ」

「世をしのぶ危ないお方、はやくお落としなさいませ。早く、早く、早く……」

「ウム、そちが裏門をあけてご案内してさしあげい。かならずそそうのないように」

「心得ました。さ、こちらへ……」

ガサガサと木の葉をわけて、男がさきに立ったので、三つの網代笠が晴季に目礼をしてついていった。

が晴季は、そのあとで、ふと不安な疑念におそわれたか、小走りに僧たちのあとを追おうとした。するとそのとたんに、かれは背なかから、何者かに、ペタリと抱きつかれて、蝙蝠の翼のようなものに、さえぎられてしまった。

「だれじゃ、麿を止めるものは」

ふりはなそうとしたが、その力はねばり強く抱きすくめていた。さては! と感じたので、晴季は前差の小太刀をぬいて、ピュッと一揮に、

「曲者!」

力まかせに後ろにはらった。

「ひッ……」

とさけんで四尺ばかり、まッ黒なかげが、身をはなれた。みると、黒衣の妖婆。――晴季の切ッ先を跳びのくが早いか、乱杭歯の口を、カッと開いて、ピラピラピラピラ! と目にもとまらぬ針をふいた。

二

妖婆の吹き針に目をつぶされて、なにかたまろう、菊亭晴季はウームとそこへ気をうしなってしまった。