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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「ええ、なにをするんだッ」

燕作は、よろけながらヤケになって大声にわめいた。

「そのことばが、甲州なまりだから、甲州の田舎者といったのがどうした、甲州も甲州、二十七代もつづいた武田の落人、四郎勝頼はてめえだろう!」

「あッ、こやつ――」

声と一しょに従僧の手から、隠し差しの一刀が、サッとのびて燕作の肩をかすった。

「おッとあぶねえ」

燕作は、バッと五、六間ほど、泳ぐようにつんのめっていきながら、ピピピピピ……と合図の呼子をふいて逃げた。――と思うと八方から、おどりたった覆面の浪人どもが、

「落人待った!」

「武田勝頼! ご用!」

「天命はつきたぞ」

口々に呼ばわりながら、ドッと三人の僧侶をとりかこんだ。

「ちぇッ、さては早くも……」

歯ぎしりを噛んだふたりの従僧、網代笠をかなぐり捨て、大刀をふりかぶって、主僧の身をまもり、きたるをうけて槍や刀をうけはらった。

いつか白刃はみだれ合って、朱になったふたりの従僧は、別れわかれの渦に巻きこまれてしまった。そして、すきをねらった一本の飛縄が、松のこずえからピューッと風をきってきたかと思うと、かれらの主と守る僧は、あッ――と大地へ搦めたおされたようす。