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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「さすがにいまだご若年、ごむりではありますが、だいじなときです。お心をしかとあそばさねば、この大望をはたすことはできません」
「そうであった、伊那丸は女々しいやつのう……」
と快川和尚が、幼心へうちこんでおいた教えの力が、そのとき、かれの胸に生々とよみがえった。にっこりと笑って、涙をふいた。
「わたくしの考えでは、家康めは、あのするどい目で、若さまのようすから心のそこまで読みぬいてしまったとぞんじます。なかなか、この龍太郎が考えた策にのるような愚将ではありませぬから、必然、お身の上もあやういものと見なければなりません」
「わしもそう思った。それゆえに、よしや、いちじの計略にせよ、家康などに頭をさげるのがいやであった。龍太郎、そちの教えどおりにしなかった、わしのわがままはゆるしてくれよ」
果然、ふたりはまえから、家康の身に近よる秘策をいだいて、わざと、この城内へとらわれてきたのらしい。しかし、すでにそれを、家康が見破ってしまったからには、鮫をうたんがため鮫の腹中にはいって、出られなくなったと、おなじ結果におちたものだ。
このうえは、家康がどうでるか、敵のでようによってこの窮地から活路をひらくか、あるいは、浜松城の鬼となるか、武運の分れめを、一挙にきめるよりほかはない。