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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

二

日がくれると、膳所の侍が、おびただしい料理や美酒をはこんできて、うやうやしくふたりにすすめた。

「わが君の志でござります。おくつろぎあって、じゅうぶんに、おすごしくださるようにとのおことばです」

「過分です。よしなに、お伝えください」

「それと、城内の掟でござるが、ご所持のもの、ご佩刀などは、おあずかりもうせとのことでござりますが」

「いや、それはことわります」と龍太郎はきっぱり、

「若君のお刀は伝家の宝刀、ひとの手にふれさせていい品ではありませぬ。また、拙者の杖は護仏の法杖、笈のなかは三尊の弥陀です。ご不審ならば、おあらためなさるがよいが、お渡しもうすことは、誓ってあいなりません」

「では……」

と、その威厳におどろいた家臣たちは、おずおずと笈のなかをあらためたが、そのなかには、龍太郎の言明したとおり、三体のほとけの像があるばかりだった。そして、杖のあやしい点には気づかずに、そこそこに、そこからさがってしまった。

「若君、けっして手をおふれなさるな、この分では、これもあやしい」

と、膳部の吸物椀をとって、なかの汁を、部屋の白壁にパッとかけてみると、墨のように、まっ黒に変化して染まった。