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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
危難は竹童の身ばかりではない。
敵地に身をおいて、草木の音にも気をくばっている伊那丸主従は、それを見ると、ハッとして、和田呂宋兵衛がさかよせをしてきたか、膳所の城にある徳川方の武士がきたかと、身がまえをしていると、やがて、炬火の先駆となって、駒をとばしてきた一騎の武者。
「やあ、それにおいであるのは、武田伊那丸さまではございませぬか」
音声たからかに呼んで近づいてきた。
「おお、いかにもこれに渡らせらるるは、伊那丸君でおわすが、して、そこもとたちは何者でござる」
まえにたって龍太郎と忍剣、きびしくこういって油断をしずにいると、
「さては!」
とその騎馬武者三人、ヒラリ、ヒラリ、と鞍から飛びおりて、具足陣太刀の音をひびかせながら面前に立った。
「それがしは、福島市松の家来、可児才蔵」
こう名のると、つぎの武者が――
「拙者は、加藤虎之助の家臣、井上大九郎と申す」
「おなじく、木村又蔵でござる」
と、いずれもりっぱな態度で会釈をした。
そしてふたたび、なかの可児才蔵が、一歩すすんで、
「不意にかような戦場のすがたで、人数をひきいてまいりましては、さだめしお驚きとぞんじますが、じつはこれお迎えの軍卒、さっそく、あれへ用意いたしてまいった馬にお召しをねがいます」