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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「おう、坂部十郎太か。たかが稚児どうような伊那丸と六部の一人や二人が、檻をやぶったとて、なにをさほどにうろたえることがある。それよりか、城の火こそ、はやく消さねばならぬ、矢倉へむかえ!」

「はッ」と十郎太が、立ちかけると――

「家康ッ!」と、ふいに、耳もとをつんざいた声とともに、闇のうちからながれきたった一閃の光。

「無礼ものッ!」

とさけびながら、よろりと、しりえに、身をながした家康の袖を、さッと、白い切ッ先がかすってきた。

「何者だ!」

とその太刀影を見て、ガバと、はねおきるより早く、斬りまぜていった十郎太の陣刀。

「お上、お上」

と近侍のものは、そのすきに、家康を屏風がこいにして、本丸の奥へと引きかえしていった。

「無念ッ――」

長蛇を逸した伊那丸は、なおも、四、五間ほど、追いかけてゆくのを、待てと、坂部十郎太の陣刀が、そのうしろから慕いよった。

と、伊那丸はなんにつまずいたか、ア――と闇をおよいだ。ここぞと、十郎太がふりかぶった太刀に、あわれむごい血煙が、立つかと見えたせつな、魔鳥のごとく飛びかかってきた龍太郎が、やッと、横ざまに戒刀をもって、薙ぎつけた。