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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「そ、その通りですよ、親方」

と、蛾次郎は、そばから、おちょぼ口をつぼめて、

「これからまた、富士山のまわりで、すさまじい戦があるとすりゃ、伊那丸と家康の喧嘩でしょうよ。家康も東海道の名将だが、伊那丸のほうにいる忍剣や龍太郎というやつも強いからな。それに、小太郎山にのこっている小幡民部というやつが、たいへんな軍師だそうで」

いいかけたところで、また、卜斎の顔色をみて、

「だが、親方には、かなわねえやきっと――」

と前言をあいまいにした。

「おれも柴田家から爪弾きをされてみれば、なんとか、ここで行く末の方針を立てなければならない場合だが」

「はい、そうです」

と深いわけもわからぬくせに、卜斎が問わず語りにつぶやくのへ、蛾次郎、いちいちあいづちをうって、じぶんも腕ぐみのまねをしている。

「ウム」

それには相手にならないで、卜斎はなにかひとりでこううなずき、上に着ていた陣羽織を脱ぎすてて、

「しばらくの間、またもとの鏃鍛冶にばけて、世間のなりゆきを見ているとしよう。そのうちには、なんとかいい運がひらけてくるだろう」

「じゃ親方、また裾野の人無村へかえって、テンカンテンカンやるんですか」