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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「おまえは、それも知らずに歩いているのか。子供ってえものはたわいのねえものだ。ここはおまえ、甲斐の信玄と家康さまとが、鎬をけずった有名な戦場で、――ほれ、三方ヶ原というところだ」

「あ、ここが、三方ヶ原でございますか。――なるほど、広いもんだなあ。そして、おじさんたちは、やっぱり徳川さまのご家来ですか」

「そうよ、おれたちは、浜松城の足軽組だ」

「いまごろから、あんな青竹や松明をたくさん車につんで、いったい、どこへおいでになりますので?」

「おれたちか……」足軽は、ちょッといやな顔をして、

「これから都田川の手まえまでいって、夜明かしで、人の死に場所をこしらえにかかるんだよ」

「へえ、人の死に場所を」

「うむ。つまり、刑場のしたくにゆくんだ」

「ああ、それで、矢来にする竹や丸太や、獄門台をつくる道具をかついで、みんながさっき向こうへいったんだな」

「そうだ、おまえも、こんなこわい話を聞いてしまうと、たださえさびしい三方ヶ原が、よけいにさびしくなって歩けなくなるぜ。だがまだいまのうちなら、夕陽がキラキラしているからいい、はやく、いそいでゆくことにしねえ」

クルリとふり向くと、さきの者とは、だいぶ距離ができたのにびっくりして、足軽の男は、急にいそぎ足に別れかけた。