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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

と、光流をふりかぶった。

「覚悟? そんなものはないッ」

と、どなることばもおわらぬまに、風をきる刃がはすかいに下りて、白衣の全身がまッ赤になった。

あとは伊那丸ひとりだ。

菊池半助はゆうゆうとして、三人目の成敗にかかろうとしている。

点々たる返り血は、夜叉のように、かれの腕や袖をいろどった。

哀寂な夕雲は、矢来の上におもくたれて、一しゅん、そこを吹く風もハタと止んだ。

ああ、ついに間に合わなかった。

小幡民部。

山県蔦之助。

巽小文治。

かれらはなにをしているのか!

いそぎにいそいで、小太郎山から疾駆してくるとちゅうで、馬もろとも、血を吐いてぶったおれたのか。あるいは、もう、そのへんまで――三方ヶ原の北のへんまでは、きているのか!

それにしても、ああ、もう大事は過ぎてしまった。

一党になくてはならない盟友、加賀見忍剣はたおれている。木隠龍太郎も血の中に俯ッ伏してしまっている。

と――思うまに菊池半助の無情な刃は、颯然と、伊那丸の襟もとへおちた。

四

目をおおうべし。

菊池半助が気をこめた刑刀は、一閃、ひゅッと虹光をえがいて、伊那丸のすがたを血けむりにさせた。