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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「はて……?」龍太郎は小首をかしげている。

「そうじゃ、ゆうべ、八幡前で、鎧売りに斬りちらされた悪侍、あのときの者が二、三人はたしか今の群れにまじっていた」

「おお、そうおっしゃれば、いかにも似通うていたやつもおりましたな」

と、龍太郎はいつもながら、伊那丸のかしこさに舌をまいた。そのまに、船は弁天島へこぎついた。

「若君――」と船をもやってふりかえる。

「浜松から遠くもない、こんな小島に長居は危険です。わたくしの考えでは、夜のあけぬまえに、渥美の海へこぎだして、伊良湖崎から志摩の国へわたるが一ばんご無事かとぞんじますが」

「どんな荒海、どんな嶮岨をこえてもいい。ただ一ときもはやく、かねがねそちが話したおん方にお目にかかり、また忍剣をたずね、その他の勇士を狩りあつめて、この乱れた世を泰平にしずめるほか、伊那丸の望みはない」

「そのお心は、龍太郎もおさっしいたしております。では、わたくしは弁天堂の禰宜か、どこぞの漁師をおこして食べ物の用意をいたしてまいりまするから、しばらく船のなかでお待ちくださいまし」

と龍太郎は、ひとりで島へあがっていった。そしてあなたこなたを物色してくると、白砂をしいた、まばらな松のなかにチラチラ灯りのもれている一軒の家が目についた。