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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「ご心情はさもあること。しかしまだそのまえに、臣としての役目がいくらものこされてある。都田川にかけられた御首級をうばって、浄地へおかくし申すこと。また刑刀をとった菊池半助を討って、いささか龍太郎や忍剣の霊をなぐさめることも友情の一ツ。さらに、しばらくこらえて小太郎山の味方をすぐり、怨敵家康に一矢をむくいたのちに死ぬとも、けっして若君のお供におくれはいたしますまい」

民部のかんがえ方は、どういう絶望の壁に打つかっても、けっして狂うことがなかった。情熱の一方に走りがちな蔦之助や小文治は、それに、反省されはげまされて、ふたたび馬の背にとび乗った。

そしてふと。

夜色をこめた草原のはてを鞍上から見ると――はるかに白々とみえる都田川のほとり、そこに、なんであろうか、一脈の殺気、形なくうごく陣気が民部に感じられた。

「はてな? ……」

眸をこらしてみつめていると、ときおり、面をなでてくる微風にまじってかすかな叫喚……矢唸り……呼子笛……激闘の剣声。

二

「計策は図にあたったぞ!」

と呂宋兵衛がさけび、しめたと菊池半助がいったところからみると、きょう都田川でおこなわれた刑罪は、家康が呂宋兵衛と半助にふかくたくらませてやった、一つの計りごとであったことはうたがいもない。