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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
民部は伊那丸を勇士猛夫の部類には育てたくなかった。器の大きな、徳のゆたかな、品位と天禀のまろく融合した名将にみがきあげたいと念じている。
伊那丸はそうして最後を見ていた。
しずかに、覚悟の機会を待っていた。
いくら、追っても斬りふせても、三方ヶ原からわいてでる敵の人数は、少しもへっていくとは見えない。
そして、都田川を背水にしいて、やや、半刻あまりの苦戦をつづけていると、フイに、思いがけぬ方角から、ワーッという乱声があがった。
「それッ、獄門の御首級をうばえ」
「うぬ、伊那丸さまのかたきの片われ!」
と、馬首をあげておどってきた影! 黒々とそこに見えた。
そのまッ先に乗りつけてきたのは、朱柄の槍をもった巽小文治である。
「退けどけどけ、邪魔するやつはこの槍を呑ますぞ」
とばかり、まっしぐらに獄門台の前まできたが、
「やッ、み首級がない!」
「なに、み首級がないと? さては逃げたやつらが素早くどこかへかくしたのだろう。それ、向こうの河原に馳けたやつを引きとらえてみろ!」
蔦之助は馬上からそこの高札を引きぬいてふりかざし、どっと、十四、五間ほどかけだしたが、あッ――と思うまに蔦之助、くぼの草かげから閃めいた銀鞭にはらわれて、馬もろとも、ドーンともんどり打ってたおれてしまった。