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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
なにか、今日ばかりは、はればれしい旅ごこちがした。伊那丸も民部も、そして、龍太郎やそのほかの者も。
そう思うこころの矢さきへ、峠の間道を、のんきな唄がとおっていった。崖の下へきた時に、小文治がのぞいてみると、裾野で見おぼえのある鼻かけ卜斎、唄は、おともの蛾次郎が、大きな口を天へむかって開いているのだ。
「オヤ」
と、向こうで気がついて、すぐわき道へ影をかくしたので、一行の者もあえて追わず、そのままさきをいそいでゆく。
そしてようよう、駿遠の山境を踏破してきた。もとより旅人もあまり通らぬ道、里数はあまりはかどらない。服織という二、三十戸の山村、みな素朴な山家者らしいので、その一軒へ伊勢の郷士といつわって宿をかりた。
はいった家は、その村の長の邸らしい。
土着の旧家らしい土塀や樹木が、母屋を深くつつんでいた。
渓流へいってからだを洗い、宿の主にひかれて、奥の一室へ落ちつくと、床に一幅の軸がかかっていた。それはその部屋へはいったとたんに、だれにもすぐ目についた。
伊那丸はサッと色をかえて、
「亭主」と案内してきた村長を見おろした。
「はい、なにかお気にさからいましたか」