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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
徳川家康の手状だ。
「おッ、なんだろう?」
かれも少し酒の気をさまして、いそがわしく封を切った。またその下にも封緘がしてある。よほど大事なことだなと思った。
「これ、伊部熊蔵をよべ、奥の鉱石庫にいるはずじゃ」
その手紙を巻きおさめながら、こういった石見守の顔色は尋常でない。
鉱山目付の伊部熊蔵、奥のほうから庭伝いにとんできた。大久保石見は酒席につっ立って、庭先にいる中戸川弥五郎という若侍へ、
「その見ぎたない百姓と娘の死骸を、はやくどこかへ取りかたづけろ」
と苦々しくいいつけて、
「おお熊蔵、むこうへまわれ、浜松からの早打状で、そちに申しつける急用ができた」
と、離室のほうへ顎をさして、そのなかへ密談にすがたをかくしてしまった。そして半刻ばかりすると、伊部熊蔵、躑躅ヶ崎の館の外郭へ駈けだしてきて、ピピピピと山笛を吹いた。
鉱石庫の外や内ではたらいていた荒くれ男は、その山笛をきくと持っている槌も天秤もほうりなげて、ワラワラと熊蔵のいる土手の下へあつまってきた。
「おい、すばらしい鉱脈が見つかったんだ」
熊蔵はこういって、鉱山掘夫一同の顔をジロリと見わたした。