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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

二

二

だが、けんめいにふいた呼子笛は、とおき砦にいる味方をまねくまえに、あたりの悪魔を集めてしまった。

甲府の代官大久保石見守が、手をまわして入れておいた裏切り者はすべてで十二人、彼女の走りだすさき、さけるさきに、槍を取って立ちふさがる。

砦の一の曲輪、二の曲輪には、味方の郎党たちが二千人足らずはいるので、その者たちに知らせさえすれば、わずかな裏切り者ぐらいはなんのぞうさもなく片づけてしまうのであろうが、この陣馬の高原とそことは、平地にしてちょうど十町ほどの距離があった。

咲耶子は、ともあれそこへ近づいて、味方へこの急変を叫ぼうとあせった。で、追い走ってくる槍、横から突いてかかる槍の穂を、翻身、蝶のごとくかわしながら、白りんどうの花をけった。

「かれを二の丸へ近づけては一大事!」

と、追いまくした十二人の裏切り武士、そのなかでも剛力をほこる神保大吉は、九尺柄の槍をしごいて、咲耶子のまえへ馳けまわった。

彼女の手には尺四、五寸の小太刀がひかる。

からりッと、槍と小太刀がからみ合った。

小太刀は槍の柄を断ちきれず、白い穂先が肩をかすめてうしろへ抜ける。

手もとへもどして、穂みじかに構えなおした神保大吉は、咲耶子が右へよれば右へ、左へよれば左へ、ジワジワとおしていった。