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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

それもそのはず。

かねて今宵のことをもくろんでいる裏切り者は、夕方の炊事どきを見はからって、砦の用水――山からひく掛樋、泉水、井戸、そのほかの貯水池へ、酔魚草、とりかぶとなどという、毒草や毒薬をひそかに流しこんでおいたのであった。

竹童はクロの餌とするものを狩りにいっていたため、まだ夕方の食事をしていなかったし、咲耶子もかれをさがしにでて難をのがれていたが、それを知らずに飲み、毒水でたいた飯を食ったものは、おそらくちょうどいまが毒薬のまわってきた時分――

三

時刻はそれより少し前のこと――。

かの、小太郎山の間道へかかって、首尾よく築城の迷道をさまよい、もとのところへ舞いもどった伊部熊蔵と雁六、ほか六十人の金鉱山掘夫が、ぼんやりくたびれもうけをしていた時分なのである。

「ねエ、親方」

と、ばかに素でかい声をして、

「こんな歌を知ってますか、こんな歌を?」

と、檜の沢を伝わりながら、ぴょいぴょい歩いてきた小僧がある。

「どんな歌を?」

と、いったのはその親方とみえるへんな顔をした人で――見ると鼻かけ卜斎だ。

「水晶掘りの歌ですよ、これから甲州へいこうっていうのに、水晶掘りの歌ぐらい知らなくっちゃ幅が利きませんぜ、ひとつ歌ってみましょうか」