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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
――そのたのもしい少女は、ちょうど三、四十人ほどそこにいた。
咲耶子は夜来の変事をつぶさに話して、いまに、この谷へも、大久保長安の手勢がきて、小太郎山の砦どうよう、ぞんぶんに蹂躪するであろうとつげた。
「――ですからおまえたちはすこしも早く、だいじな品物や、仕事の道具を取りまとめて、めいめいの郷へお帰りなさい。そして後日、ふたたび小太郎山に武田菱の旗印を見たならば、またその時は、緋おどし谷へきておくれ、そして、仲よく刺繍をしたり染物をしておくれ。わたしは、それを知らせにきたのです」
意外!
かなしい別れの言葉であった。
巴旦杏のようにかがやいていた少女たちの頬は、みているまに白くあせて、眉はかなしみに曇った。
袖をもって顔をおおう少女もある。
拭くのも忘れてあきらかに涙の流るるにまかせている顔もある。
だが。
それはやがて、強い敵愾心とかわって、哀別をこばむ決心が、だれの唇からともなく、
「イエ!」
「イエ!」
「イエ!」
とはげしくほとばしり、みなそろってかぶりをふった。
「わたしたちは帰りません!」
ひとりの声が凜という。
「このまま郷へ逃げかえって、父や兄に問われた時、なんと、小太郎山のことを話しましょう」