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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「ばかをいえ、さような者はここらにいない」
「たしかに生きているはずです。それは、友だちともうしても、ただの人ではありません。クロともうす大鷲、それをひと目見たいのでございます」
「だまれ。あの黒鷲は、当山を攻めおとした時の生捕りもの、大せつに餌をやって、ちかく浜松城へ献上いたすことになっているのだ、汝らの見せ物ではない。帰れというに帰りおらぬか」
ひとりが腕、ひとりが襟がみをつかんで、ずるずるとひきもどしかけると、忍剣の眉がピリッとあがった。
「これほど、ことをわけてもうすのに、なおじゃまだてするとゆるさんぞ!」
「なにを」
ひとりが腰縄をさぐるすきに、ふいに、忍剣の片足がどんと彼の脾腹をけとばした。アッと、うしろへたおれて、悶絶したのを見た、べつな侍は、
「おのれッ」と太刀の柄へ手をかけて、抜きかけた。
――それより早く、
「やッ」と、まッこうから、おがみうちに、うなりおちてきた忍剣の鉄杖に、なにかはたまろう。あいては、かッと血へどをはいてたおれた。
それに見むきもせず、鉄杖をこわきにかかえた忍剣はいっさんに、うら山の奥へおくへとよじのぼってゆく。――と、昼なおくらい木立のあいだから、いような、魔鳥の羽ばたきがつめたい雫をゆりおとして聞えた。