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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
いかにもそうにちがいなかった。かれはさいぜんから群集のうちにまじって、自分を見ているふたりの人物が気になってたまらないのである。
「よし、こんどは!」
と腹からかまえどりをきめて蛾次郎太夫、邪念をはらって独楽を持ちなおし、恬然として四どめの口上を反り身でのべたてた。
「エエ、エヘン」
見物はまたかと、クスクス笑った。
「さて、最初の独楽しらべ、小手しらべとしまして、空まわし三たび首尾よく相すみましたから、いよいよこれから本まわしの初芸に取りかかります」
「うまく逃げ口上をいってやがる」
「また四どめも小手しらべはごめんだぜ」
「早くやれ、文句をいわずに」
第一印象がわるかったので、太夫の人気はさんざんである。けれど蛾次郎は、ここでひとつ喝采をはくして見物から銭を投げてもらわなければ、ここまでの努力も水の泡だし、かえりに空腹をかかえてもどらなければならないと思うと、しぜんと勇気づいて、四面楚歌の弥次ごえも馬の耳に念仏。
「あいや、お立合のみなの衆!」
と、いちだん声をはりあげて、
「芸は気合いもの、独楽は生き物。いくら廻し手が名人でも、そうお葬式の饅頭に鴉がよってきたように、ガアガアさわがれていてはやりきれない。