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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「ごしんせつに、ありがとうございます。わたしは、西山梨在の戸狩村にいた勘蔵という水晶掘りの女房でお時というもんでござります。はあ、子供も五人もございましたが、そのうち三人は亡くなりました。ひとりの男の子はまだ小ッけえうちに、伊勢まいりにいった途中でかどわかされ、たったひとりのこっていた娘は……その娘は……」
と、女は濠を指さして、また泣きじゃくった。
ちょうど、この夏、伊部熊蔵がこの躑躅ヶ崎に鉱山掘夫を勢ぞろいして、小太郎山へでかけようとした同じ日のこと、信玄の石碑へ、香華をあげて拝んでいるところを見つけられたひとりの百姓が、この館のうちへ、若侍たちの無情な手にひきずられてきた。それを助けてくれと、泣きながら城内へついてきた娘も、その百姓も、ちょうど酒宴をしていた長安のよい酒の興味になって無慈悲な手討ちにあって殺されたが、その死骸を投げすてられたと聞くこの濠へ、いま身を投げようとした女は、そのときの百姓風な水晶掘り勘蔵の女房なのであった。
たったひとりの娘と良人を、無慈悲な領主に殺されたお時は、すこし気がヘンになって、戸狩村からどこともなくさまよいだしていたが、あぶない命をすくわれて、かの女はまた、気もくるわしく泣くのであった。