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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
その証拠には星が見える。月だってありありと見えるじゃないか。だが今は、死んだかと思った。あぶねえあぶねえ、うっかり起き上がろうものなら、こんどは光ったほうで、グサリとほんとにやられるかもしれない)
こう考えて、死んだまねをしているらしい。いや、事実は腰の蝶つがいがはずれて、にわかに、起きたくも起きられないでいるのかもしれない。
「手におえない小僧でございますな」
と、濠ばたのほうで小文治がささやいた声さえも、かれはハッキリと耳に入れた。その話に、自分に対してべつだん深い殺意がないのだと覚ると、蛾次郎ははじめて、ホッと多寡をくくって、
「ちぇッ、おどかすない」
と、腰をさすって、そろそろ首をもたげだした。
二
迷子札のような門鑑を番士にしめして、その夜、霜にあったキリギリスみたいに、ビッコをひいた蛾次郎が、よろよろと躑躅ヶ崎の郭内にあるお長屋へ帰ってきたのは、もうだいぶな夜更けであった。
城内の長屋というのは、館につめている常備の侍や雑人たちの住居で、重臣でも、一朝戦乱でもあって籠城となるような場合には、城下の屋敷からみな妻子眷族を引きあげてここに住まわせ、一国一郭のうちに大家族となって、何年でも敵と対峙することになる。