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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
奥庭で殿さまが飼っている猿――あの三太郎猿じゃないか、とすれば、抱いて寝てやろうか、あいつはおもしろい。
と、蛾次郎がムックリと起きると、猿とみた梁の影ははなはだ猿らしくなく、きッとかまえをとって、上から蛾次郎のようすを見つめる。
しかも、腰のあたり、屋根の破れをもれる光線に、チカッと光るのは刀の鐺ではないか。
とたんに、
「おお!」
と蛾次郎は藁を散らして飛びあがった。
「やッ」
と、天井の小さい人かげもりすのごとくべつな梁へ飛びうつった。
出会ったり! 火独楽と水独楽双方の持ち主、上にひそんでいたものこそ、どうして、いつどこからこの躑躅ヶ崎の郭へしのびこんでいたのか、まぎれもあらぬ鞍馬の竹童。
その時、鷲をよぶ高楼の笛はまだ、忍びやかに遠音であった。
勘助流火合図
一
奇遇といおうか、皮肉なぐうぜんといおうか、じつに人間の意表外にでることは、わずか十坪か二十坪の天地にも、つねに待ちぶせているものだ。
近江竹生島の可愛御堂でつかみあいの喧嘩をやってから、菊村宮内に仲裁をされ、その後、小太郎山落城のまぎわに別れたまま、おたがいにその生死消息をうたがいあっていた蛾次郎と竹童。