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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
梁のうえに身をかがめ、片手を横木にささえ、右手に火独楽をふりかぶって、うごかば、いまにも発矢と投げつけそうな眼光。
二
いかにも蛾次郎が胴ぶるいをおぼえたはずである。気はおもてにあらわる。今宵こそはと最後の死をけっして、石門九ヵ所のかためを越え、易水をわたる荊軻よりはなお悲壮な覚悟をもって、この躑躅ヶ崎の館にしのびこんだ竹童であった。
「うごいてみろ」
と、かれは火独楽をつかんで、蛾次郎の頭蓋骨へたたきつけるつもり。
それでいけなければ般若丸の晃刀、梁の上から抜きざまに、一気一刀の下にとび斬り。
なお討ちそんじたら取ッ組んで、きゃつの喉首を締めあげても、この馬糧小屋のそとへかれをだしては、きょうまでの臥薪嘗胆は水のあわではないか――と思いこんでいる鞍馬の竹童。
自分は決死、かれを見るや必殺。
この躑躅ヶ崎の高楼にとらわれている咲耶子をすくいださなければ、男として、鞍馬の竹童として、なんで生きてふたたび伊那丸や一党の人々とこの顔があわされようか。
そう考えてしのびこんだ胸中の大一念、おのずから燐のごとく眼脈に燃えあがっているので、暗々たる屋根うらの梁に、そのものすごい形相をあおいだ蛾次郎が、口ほどもなく一目見るなりブルブルと、膝の蝶番をはずしかけたのはもっともだった。