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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

「あ熱ッ……あ熱……あ、つつ、つッ……」

着物にもえついた火をハタきながら、まるで気狂いのようになって、もう逃げ口のけんとうもつかず、盲目的にやわらかいワラ火の山へ向かって駈けだそうとする。

「おいッ」われを忘れてとは、この時の竹童のこと。

「ばッ、ばかッ。そッちは火だ!」

と、蛾次郎の襟がみをつかんで引きとめた。いや、投げとめた。

そして、かれを地べたにころがして、袖や裾にもえついている火を消してやると、蛾次郎は煙にむせながらはねおきて、こんどは竹童と一しょになって、戸をやぶるべく必死に力をあわせはじめた。

しかし、いぜんとして出口は開かれない。

ふたりの命も早やあきらめなければなるまい。噴きあがった業火はふたりの無益な努力をあざわらうもののごとく、ずッしりと黒く焦げたワラ山から小屋の羽目板をなめずりまわしている。

心頭を滅すれば火も涼し――と快川和尚は恵林寺の楼門でさけんだ。まけおしみではない、英僧にあらぬ蛾次郎でも、いまは、火のあついのを意識しなくなった。

いやふたりはまだ、より以上ふしぎなものを忘れていた。蛾次郎は竹童を、竹童は蛾次郎を、あくまで敵、あくまで仇! と思い合っているはずなのに、その憎念を瞬間スッカリ忘れてしまって、放っておけば、ひとりで火の中に飛びこんで死ぬのを抱きとめたり、おたがいに