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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「なにか殺気だっているが、伊那丸さまといい他の者といい、ここへくれば、なんとかわれわれに手はずをなさるであろうから、どうもそうは考えられんな」
「では、なんだろう」
「石見守長安の家中で、うらぎり者が起ったか、でなければ、仲間同士の争闘か」
「そうとすればおもしろいが――オヤ……」
と小文治は足もとをすかすように、ほの明るく映えている外濠の水面をながめだす。
「――妙な物が浮いている」
「なんだ?」
「手組の筏らしい――ヤ、そして、あの柳の木の根からむこうの堤へ、一本の綱がわたしてあるぞ」
「ウーム、するとやッぱり、これは内部の仲間割れではないな」
「この筏は天佑かも知れんぞ」
「ウム」
「渡りに舟というものだ、なにはともあれ、こいつに乗って城内に入りこんで見ようではないか」
「おお、よかろう!」
決然というと龍太郎は、柳の根へかけ寄って、渡し綱にそえてあるともづなをこころみにグイと引ッぱってみた。
案のごとく、濠のなかほどに浮いていた手組の筏は、かるく、こっちの岸へよってきた。手組の筏というのは、およそ、ゆく手に水路のあるのをさっした場合、おのおの、九尺の桐丸太を一本ずつたずさえていって、そくざに菱形筏をあんでは渡ってゆくことで、これは、越後流、甲州流、長沼流を問わず、すべての陣法にあるめずらしくもないことなのである。