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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

ヒラリ――と龍太郎それへ乗る。

「白鷺のようだな……」

小文治はかれの姿を形容しながら、あとから飛びのって渡し綱をたよりに、グングン濠の水をあなたの芝土手へと横切ってゆく。

苦もなく渡っておどりあがった。

なるほど、これでは三、四十人の覆面少女が、やすやすと躑躅ヶ崎へ入りこんだわけだが、まだ龍太郎には、この手組の菱筏が、だれに使用されたものか想像はつかなかった。

三

ガバとはね起きた石見守、大久保長安は、悪夢におびやかされたように、枕刀を引ッつかむなり、桜雲台本殿の自身の寝所から廊下へとびだした。

「桐井吾助! 桐井吾助!」

足をふみ鳴らして宿直部屋へ呼びたてる。

「狩谷はおらんかッ、狩谷軍太夫はおらぬか」

それにも返辞はなく、殿中、ただなんとなくものさわがしいので、いまはジッとしていることもできないで、錠口まで足を早めながら、

「だれぞおらぬかッ。おお、伊部熊蔵はいかがいたした」

と呼び立ててくると、出合い頭。

まがり廊下の横合いから、サッと見えた真槍の燐光、ビクリッとして飛びのくと、

「や、これは殿」

「なんじゃ、伊東十兵衛ではないか」

「はッ……」

ぴしゃりッ――と槍を廊下へ平において、老臣の伊東十兵衛、あわててかれの前に膝をついた。