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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
三
三
みんな空をむいて、同じように、眉毛の上へ片手をかざしている。
烏帽子の老人、市女笠の女、侍、百姓、町人――雑多な人がたかって、なにか評議の最中である。
「さて、ふしぎなやつじゃのう」
「仙人でしょうか」
「いや、天狗にちがいない」
「だって、この真昼なかに」
「おや、よく見ると本を読んでいますよ」
「いよいよ魔物ときまった」
この人々は、そも、なにを見ているのだろう。
ここは近江の国、比叡山のふもと、坂本で、日吉の森からそびえ立った五重塔のてッぺん――そこにみんなの瞳があつまっているのだった。
なるほどふしぎ、人だかりのするのもむりではない。太陽のまぶしさにさえぎられて、しかとは見えないが、鶴のごとき老人が、五重塔のてッぺんにたしかにいるようだ。しかも目のいい者のことばでは、あの高い、登りようもない上でのんきに書物を見ているという。
「なに、魔物だと? どけどけ、どいてみろ」
「や、今為朝がきた」
群集はすぐまわりをひらいた。今為朝といわれたのはどんな人物かと見ると、丈たかく、色浅ぐろい二十四、五歳の武士である。黒い紋服の片肌をぬぎ、手には、日輪巻の強弓と、一本の矢をさかしまに握っていた。