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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

四

「む、いかにも見えるな……」

と、五重塔のいただきをながめた武士は、ガッキリ、その矢をつがえはじめた。

「や、あれを射ておしまいなさいますか」

あたりの者は興にそそられて、どよみ立った。

「この霊地へきて、奇怪なまねをするにっくいやつ、ことによったら、南蛮寺にいるキリシタンのともがらかもしれぬ。いずれにせよ、ぶッぱなして諸人への見せしめとしてくれる」

弓の持ちかた、矢番も、なにさまおぼえのあるらしい態度だ。それもそのはず、この武士こそ、坂本の町に弓術の道場をひらいて、都にまで名のきこえている代々木流の遠矢の達人、山県蔦之助という者であるが、町の人は名をよばずに、今為朝とあだなしていた。

「あの矢先に立ってはたまるまい……」

人々がかたずをのんでみつめるまに、矢筈を弦にかけた蔦之助は、陽にきらめく鏃を、虚空にむけて、ギリギリと満月にしぼりだした。

塔のいただきにいる者のすがたは、下界のさわぎを、どこふく風かというようすで、すましこんでいるらしい。

四

「日吉の森へいってごらんなさい。今為朝が、五重塔の上にでた老人の魔物を射にゆきましたぜ」

坂本の町の葭簀茶屋でも、こんなうわさがぱッとたった。