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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

こうして、おたがいに槍の両端を握りあってゆけば、流されることはありません」

龍太郎は山なれているので、先にかるがると、岩石へとびうつった。すると、小文治のうしろにあたる断崖から、ドドドドッとまっ黒なものが、むらがっておりてきた。

「や?」と小文治は身がまえて見ると、およそ五、六十ぴきの山猿の大群である。そのなかに、十歳ぐらいな少年がただひとり、鹿の背にのって笑っている。

「おお、そこへきたのは、竹童ではないか」

岩の上から龍太郎が声をかけると、鹿の背からおりた少年も、なれなれしくいった。

「龍太郎さま、ただいまお帰りでございましたか」

「む、して先生はおいでであろうな」

「このあいだから、お客さまがご滞留なので、このごろは、ずっと荘園においでなさいます」

「そうか。じつは拙者の道づれも、足をいためたごようすだ。おまえの鹿をかしてあげてくれないか」

「アアこのおかたですか、おやすいことです」

竹童は口笛を鳴らしながら、鹿をおきずてにして、岩燕のごとく、渓流をとびこえてゆくと、猿の大群も、口笛について、ワラワラとふかい霧の中へかげを消してしまった。

鹿の背をかりて、しばらくたどってくると、小文治は馥郁たる香りに、仙境へでもきたような心地がした。