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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

ねらいは定まッた。

火縄の火がチリチリと散ったせつなに、蛾次郎の指さきは、すでに、短銃の引金を引こうとした。

とたんだった。

「わッ」

と、蛾次は短銃をおッぽりだして、自分の顔をおさえてしまった。そして、ベッ……と顔をしかめながら突ッ立った。

なにやら、甘酸ッぱいものが、かれの顔じゅうにコビリついて、ふいてもふいてもしまつがつかない。

――どこから飛んできたものだろうか、熟柿のすえたのが、顔の真ン中で、グシャッとつぶれた。

柿の目つぶし!

「ちくしょう、猿のいたずらだな」

と蛾次郎は、いまいましく思ったが、まごまごしていると火縄の火がきえる。

かれは、またあわてて短銃を取りなおした。

そして、

「こんどこそは!」

と、立ちがまえにねらいをすまして、ズドンと火ぶたを切ってはなそうとしたが、その一せつな、山毛欅の洞穴から跳びだしたひとりの怪人が、電火のごときすばやさで、かれの胸板を敢然とついてきた。

不意をくッて、

「あッ――」

と、よろめいた蛾次は、むちゅうで、相手のえりがみをつかむ。

かれの手がつかんだのは、やわらかい獣の毛だった。怪人は猿の毛皮をかぶっていた。