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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
二
宮内はそこに笈をおろして、踏み散らしてある落葉のあとをたどっていった。そして、例の楢の木の断崖から深いところの水面をのぞいてみて、
「オオ、お時さん、大へんだ、大へんだ、だれか山家の子らしい者が水に浮いている」
「えッ、子供が」
こういう場合にかぎらず、子供ときくと、すぐ顔色を変えるのがお時のくせになっていた。
「あのようすでは、まだ水へはまってから、いくらも時がたっていない。わしは、ここから藤づるにすがって、ふたりの子を助けてくるから、お時さんは、わしが帰るまで、この楢の木のそばをはなれてはなりませんぞ」
どうして、この絶壁を下りるかと見ていると、宮内は、さすがに根が武士だけに、いざとなると、おそろしいほど胆気がすわっている。かれは、あけびや藤の蔓をたぐって、またたくまにすべり降りた。
とちゅうまでさがってゆくと、なにか足がかりがあったのであろう、かれの姿は、忽然と、木の葉のなかにかくれた。――と思うとまた、滝の水沫がたちこめている岩層の淵にそって、水面を注意しながらかける宮内の小さい影が見いだされた。
三
どこか上品で、ものごしのしずかな旅の侍が、森閑としている御岳の社家の玄関にたって、取次ぎを介してこう申し入れた。