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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「当社の神主、長谷川右近どのにお目にかかりたく参じました。――じぶんは、京都菊亭公の雑掌、園部一学というものです」

わかい神官たちを相手に、奥で笙をふいていた長谷川右近は、

「はてな、菊亭右大臣家から、なんのお使いであろう」

ふしんに思ったが、倉皇と客間へとおした。そこで、会ってみた一学という人は、なるほど、温雅で京風なよそおいをした、りっぱな人物であった。

「さっそくにうかがいまするが」

「は。ご用向きは?」

主客とも、心もち膝をよせ合った。

「ほかでもございませぬが、さきごろ、当社の広前で行われました兵法大講会のみぎり、信玄公のお孫、武田伊那丸さまとそのほかの浪人衆が、おしのびにて見物に入りまじっていた由を里のうわさに聞きましたが、その後のおゆくえをごぞんじなさいますまいか。――信玄公のご在世まで、代々武田家より社領のご寄進もあったこの山のことゆえ、もしや、ご承知もあろうかと、おうかがいにでましたしだいで」

そう聞くと、神主の長谷川右近は、初耳のように目をみはって、

「ほ。ではあの時、信玄公のお孫、伊那丸さまがご見物のなかにおられましたか」

と、あべこべに園部一学へ質問した。