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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

一方、神主の右近は、目もくらむばかりの驚き方であった。一学の話によれば、さきごろ、ご神縄にかけて山毛欅の上にしばりつけた怪僧は加賀見忍剣であり、同時に、それいらい、垢離堂の板の間に二十一日間の謹慎をまもっている人々こそまさしく信玄公のお孫、伊那丸君であり、おつきの人々であると気がついたからである。御岳の人々は、それが武田家の御曹子とは、まったく知らずにご神縄をくだしたのであったらしい。神官たちはにわかに凝議して、その善後策に沈鬱な空気をつくった。

「夢にも知らぬご無礼、ふかくおわびをしたら、おとがめもあるまい。このうえは、いっこくもはやく、あの垢離堂から社家へおうつし申しあげ、また、付人の忍剣とやらの神縛もといて謝罪するよりほかに手段はなかろう」

いつまで応接のないのはそのためであった。

神官たちが垢離堂へ迎えに立ったあとで、右近はやっと一学のまえへでてきた。そして、あからさまに事情をのべて謝罪のとりなしをたのむのだった。

「ほ。それでは、若君は当社においで遊ばしましたのか」

「武田家からは、世々、あつき社領をたまわり、亡家ののちも、けっしておろそかには思いませぬものを、なんとも面目ない大失態」