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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「おかしら、いつもご壮健で、けっこうでござりますな」

「なんだって? おれはそんな者じゃアない」

「エヘヘヘヘ、わたしも、こんな、侍姿にばけているから、ゆだんをなさらないのはごもっともですが、さきほど町で、チラとお見うけして、まちがいがないのです」

「なんだい、おめえはいったい?」

「こう見えても、ずいぶん浪の上でかせいだ者です」

「おれたちの船じゃなかろう、こっちは知らねえもの」

「そりゃア数ある八幡船ですから」

「しッ。でっかい声をするねえ」

「すみません。船から船へわたりまわったことですからな、ながいお世話にはなりませんでしょうが、おかしらの船でも一どはたらいたことがあるんです」

話しながら、いつか陸はずれの、小船のおいてあるところまできてしまった。あとをついてきた侍すがたの男は、ぜひ、もう一ど船ではたらきたいからとせがんでたくみに龍巻を信じさせ、沖にすがたを隠している、八幡船の仲間のうちへ、まんまと乗りこむことになった。

その男の正体が、小幡民部であることはいうまでもない。なまじ町人すがたにばけたりなどすると、かえってさきが、ゆだんをしないと見て、生地のままの反間苦肉がみごとに当った。