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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

どの面さげて、伊那丸の前へでおった、見るもけがれだ。退れッ」

「ワッハッハハハハ」梅雪は内心ギクとしながら、老獪なる嘲笑にまぎらわして、

「なにをいうかと思えば、小賢しい無礼呼ばわり。なるほどその昔は、信玄公にも仕え、勝頼にも仕えた梅雪じゃが、いまは、主でもなければ君でもない。武田の滅亡は、お許の父、勝頼が暗愚でおわしたからじゃ。うらむならお許の父をうらめ、馬鹿大将の勝頼をうらむがよい」

「ムムッ……よういッたな!」

不道の臣に面罵されて、身をふるわせた伊那丸は、やにわに、ガバとはねおきるがはやいか、両手を縛されたまま、梅雪に飛びかかって、ドンと、かれを床几から蹴とばした。

「なにをするか」

縄尻をひいた民蔵の力に、伊那丸はあおむけざまにひッくり返った。ア――おいたわしい! とおもわず睫毛に涙のさす顔をそむけて、

「ふ、ふざけたまねをすると承知しねえぞ。立て! こっちの隅へ寄っていろい!」

ズルズルと引きずってきて、拝殿の柱へ縄尻をくくりつけた。龍巻はそれをきッかけにして、

「じゃあ殿さま、伊那丸はたしかに渡しましたから、約束の金を、こっちへだしてもらいましょうか」