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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

三

さしも強情な穴山梅雪も、論より証拠、民部のことばのとおり、味方がさんざん敗北となってきたのを見て、もうゆうよもならなくなったのであろう。こなたへ駒を寄せてきて、小幡民部の手へ采配をさずけた。

「ごめん」

受けとって押しいただいた民部は、駕籠の上に立ったまま、八ぽうの戦機をきッと見渡したのち、おごそかに軍師たるの姿勢をとり、采のさばきもあざやかに、

さッ、さッ、さッ。

虚空に半円をえがいて、風をきること三度。

ああなんという見事さ、それこそ、本朝の諸葛亮か孫呉かといわれた甲州流の軍学家、小幡景憲の軍配ぶりとそッくりそのまま。

「や?」

よもや、新参の民蔵が、その人の一子、民部であろうとは、夢にも知らない梅雪入道、おもわず驚嘆の声をもらしてしまった。

三

月の夜には澄み、朝は露をまろばせても、聞く人もないこの裾野に、ひとり楽しんでいる笛は、咲耶子が好きで好きでたまらない横笛ではないか。

しかし、その優雅な横笛は、時にとって身を守る剣ともなり、時には、猛獣のような野武士どもを自由自在にあやつるムチともなる。

いましも、小高い丘の上にたって、その愛笛を頭上にたかくささげ、部下のうごきから瞳をはなたずにいた彼女のすがたは、地上におりた金星の化身といおうか、富士の女神とたとえようか、丈なす黒髪は風にみだれて、麗しいとも