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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

この世の見おさめに、泣くとも笑うとも、ぞんぶんに狂って見るがいい」

と、にくにくしい毒口をたたいた。

「さて大人気ない武者どもよ――」

伊那丸は声もすずしくあざわらって、

「わしひとりの命をとるのに、なんとぎょうぎょうしいことであろう。冥土におわす祖父信玄やその他の武将たちによい土産話、甲州侍のなかにも、こんな卑劣者があったと笑うてやろう!」

「えい、口がしこいやつめ、民蔵、早々この童の息のねをとめてしまえ!」

梅雪は、号令した。

声におうじて、

「はッ」と、武者ぶるいして立ちあがった民部は、伊那丸のうしろへまわって、ピタリと体をきめ、見る目もさむき業刀をスラリと腰からひきぬいた。

「お覚悟なさい! 太刀取りの民蔵が君命によってみ首はもうしうけた」

「…………」

覚悟――それは伊那丸にとっていまさらのことではない。かれは一糸とりみだすさまもなく、観念の眼をふさいでいる。

正面の梅雪入道をはじめ、四天王以下の大衆も、かたずをのんで、民部の太刀と伊那丸のようすとを見くらべていた。

湖水の波も心あるか、冷たい風を吹きおこして、松の梢にかなしむかと思われ、陽も雲のうちにかくされて、天地は一瞬、ひそとした。