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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

そのあいだに、天野、猪子、足助などが、鉾先をそろえてきたため、みすみす長蛇を逸しながら、それと戦わねばならなかった。

いっぽう、民部にかかりあつまった雑兵は、伊那丸のほうへ、バラバラと、かけ集まったが、それよりまえに、咲耶子が、腰の縄を切るがはやいか、伊那丸の手をとって、

「若君。早く早く」

と、よりたかる武者二、三人を斬りふせながらせきたてた。

とたんに背なかから、一人の武者がかぶりついた。伊那丸は身をねじって、ドンと前へ投げつけ、かれのおとした陣刀をひろいとるがはやいか、近よる一人の足をはらって、さらに、咲耶子へ槍をつけていた武者を斬ってすてた。

すべては一瞬の間だった。

伊那丸じしんですら、じぶんでどう動いたかわからない。穴山がたの郎党も、たがいに目から火をだしての狼狽だった。そして白熱戦の一瞬がすぎると、だれしも命は惜しく、八ぽうへワッと飛びのく。――

ひらかれた中心にあるのは、伊那丸と咲耶子とである。二人は背なかあわせに立って、血ぬられた陣刀と懐剣を二方にきっとかまえている。

目にあまるほどの敵も、うかと近よる者もない。ただわアわアと武者声をあげていた。