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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

自然城・小太郎山

一

ポツリ、ポツリ、大粒の雨がこぼれてきた。空をあおげば団々のちぎれ雲が、南へ南へとおそろしいはやさで飛び、たちまち、灰色の湖水がピカリッ、ピカリッと走ってまわる稲妻のかげ。

濛々たる白い幕が、はるか裾野の一角から近づいてくるなと見るまに、だんだんに野を消し、ながき渚を消し、湖水を消して、はや目の前まできた。と思う間もあらせず、ザザザザザザザアーッと盆をくつがえすという、文字どおりな大雨の襲来。

めでたく穴山梅雪を討ちとりはしたが、離散して以来のつもる話もあるし、これからさきのそうだんもある折から、爽快なる大雨の襲来は、ちょうどいい雨宿りであろうと、一同は、白旗の宮のあれたる拝殿に入り、そして伊那丸を中心に、しばらく四方の物語にふけっていた。

自然城・小太郎山

一

武州高尾の峰から、京は鞍馬山の僧正谷まで、たッた半日でとんでかえったおもしろい旅の味を、竹童はとても忘れることができない。

果心居士のまえに、首尾よくすましたお使いの復命をしたのち、その晩、寝床にはいったけれども、からだはフワフワ雲の上を飛んでいるような心地、目には、琵琶湖だの伊吹山だの東海道の松並木などがグルグル廻って見えてきて、いくら寝ようとしても寝られればこそ。