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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「しめた! お師匠さまはあのとおりな鼾、いくらなんでも寝ているうちのことは気がつくまい。どれ、今のうちにおいらの羽をのばしてこようか」
ほそっこい帯をチョコンとむすび、例の棒切れを腰にさして、ゆうべ食べのこした木の芽団子をムシャムシャほおばりながら、猿のごとく荘園をぬけだした。
そのはやいことは、さながら風!
空にはまだ有明けの月があった。あっちこっちの岩穴からムクムクと白いものを噴いている、朝の霧である。竹童のあわい影が平地から崖へ、崖から岩へ、岩から渓流へと走っていくほどに、足音におどろかされた狼や兎、山鳥などが、かれの足もとからツイツイと右往左往に逃げまわる。
いつもの竹童ならば、こんな場合、すぐ狼を手捕りにする、兎を渓流のなかへほうりこむ。とてもいたずらをして道草するのだが、きょうはどうしてそれどころではない。なにしろこれからお師匠さまの朝飯となるまでに、日本国じゅうの半分もまわってこようという勢いなのだから。
「やアどうしたんだろう、いない! いない!」
やがて、瘤ヶ峰のてッぺんにある、天狗の腰掛松の下にたった竹童は、素ッ頓狂な声をだしてキョロキョロあたりを見まわしていた。