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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

ゆだんするな!」

叫ぶまもなく、ピュッ、ピュッと、風をきってくる霰のような征矢。――早くも、四面の闇からワワーッという喊声が聞えだした。

「さては武田伊那丸がきたか」

「いやいや咲耶子が仕返しにまいったのだろう」

「うろたえていずとかがり火を消せ、はやく松明をすててしまえ、敵方の目じるしになるぞ」

あたりはたちまち暗瞑の地獄。

ただ、燃えいぶった煙と、ののしる声と、太刀や槍の音ばかりが、ものすごくましていった。

もう、どこかで斬りあいがはじまったらしい。

星明かりをすかしてみると、敵か味方か入りみだれてよくわからないが、白馬黒鹿毛をかけまわしている七人の影は、たしかに襲せてきた七勇士。それに斬りまわされて、呂宋兵衛の手下どもは、

「だめだ、足を斬られた」

「敵はあんがいてごわいぞ。もう大変な手負いがでた」

「殿堂へ逃げろ!」

「人穴へ引きあげろ!」

と声をなだれあわせて、思いおもいな草の細径へ蜘蛛の子のちるように逃げくずれた。

それらの、雑兵や手下には目もくれず、さきほどから馬上りんりんとかけまわっていた伊那丸は、

「咲耶子はいずれにある。咲耶子、咲耶子」

と、しきりに呼びつづけていた。