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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

隠密落とし

一

「ふーむ、ではこっちへむかっていってはわるいか」

「悪いことはないけれど、この蘆川を大まわりして、甲州街道をグルリとまわった日には、半日もよけいな道を歩かなけりゃならない。それより、この川を乗っきって駿州路を左にぬけ、野之瀬、丸山、鷲の巣とでて、野呂川を見さえすれば、すぐそこが、小太郎山じゃないか」

と、すこし抜けている蛾次郎も、住みなれた土地の地理だけに、くわしく弁じた。

「なるほど、これは拙者がこのへんに暗いため、無益の遠路につかれていたかも知れぬ。しかし、この激流を、馬で乗っきる場所があろうか」

「あるとも、水馬さえ達者なら、らくらくとこせる瀞がある。ここだよ、お侍さん――」

と蛾次郎はまえに水切りをやっていたところを教えた。

「む。なるほど、ここは深そうだ、川幅も四、五十間、これくらいなところなら乗っ切れぬこともあるまい」

と龍太郎はよろこんで、浅瀬から項羽を乗りいれ、ザブザブ、ザブ……と水を切っていくうちに紺碧の瀞をあざやかに乗りきって、たちまち向こう岸へ泳ぎ着いてしまった。

「ありがとう」

と、それを見送るとほッとしたさまで、竹童が礼をいうと、蛾次郎はクスンと笑って、