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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「やあどうしたんだお侍さんは? 死んじまうぞ。死んじまうぞ」
「はやくしてくれ、早く助けてくれい」
「助けてやったら、なにをくれる?」
石投げの天才のほか、仕事も下手、もの覚えも悪く、すこし足らない蛾次郎だが、慾にかけては、ぬけめがない、半助は一ときの熱苦もたまらず、うめきながら、
「なんでもつかわすからはやく、ア熱ッ、あッツツツ」
「よし、きっとだぜ」
念を押しながら飛びこんで、蛾次郎は枯れ木の火を蹴ちらし、山刀をぬいて半助の縄目をぶっつり切った。火のなかから跳びだした半助は、ほッとして大地へたおれたが、やにわにまた足の痛手を忘れておどりたった。
「わるいところへ、またあなたからあやしい人の足音がしてまいった。おい、おれに肩をかせ、そして、しばらく休息するところまで連れてゆけ。褒美はのぞみしだいにやろう」
「じゃ、おれの親方の家でもいいかい」
「頼む、あれ、あれ、もう軍馬の蹄がまぢかにせまる」
「たいへんだ! ことによると雨ヶ岳に陣どっている者たちがくだってきたのかも知れないぞ」
蛾次郎もにわかにあわてだして、半助のからだを背負って、一目散にそこを立ちさった。