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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

すると、たった一足ちがいに、嵐のように殺到した一団の軍馬があった。

「それ、常からあやしい蚕婆の家をあらためろ!」

「戸を蹴やぶってなかへ、踏ンごめッ」

馬上から十四、五人の武士に、はげしく下知をしたふたりの武士、これなん、伊那丸の幕下でも、荒武者の双龍といわれている加賀見忍剣と巽小文治のふたり。

「おう!」

と部下は武者声をあげるやいなや、蚕婆の家の裏表から、メリメリッ、バリバリッと戸を踏みやぶっておどりこんだ。が、なかは暗澹、どこをさがしても、人かげらしい者は、見あたらなかった。

と、聞いた忍剣は、

「いや、そんなはずはない。たしかにあやしい男と老婆とが、密談いたしていたのを、間諜の者が見とどけたとある。この上は自身であらためてくれる」

と禅杖をひっかかえひらりと馬を飛びおり、巽小文治とともに、家の中へはいっていって八方家探ししたが、部下のことばのとおり、何者もひそんでいなかった。

「ふしぎだ――」

小文治は、そこにもぬけの殻となっている寝床へ手を入れてみて、

「このとおり、まだ人のぬくみがある。さすれば、いよいよ逃げた者こそ、あやしい曲者にそういない」