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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

ときに旅のお武家さま、なにしろ今夜は更けておりますから、この上の中二階へあがって、ごゆるりとお休みなさるがいい。そこに夜具もある、火の気もある、食い物もある、男世帯の屋敷ですから、好きにしてお泊りなさい」

「かたじけない、ではお言葉にあまえて夜明けまで……」

と、半助はそこにいるのも気まずいので、びっこを引きながら、おしえられた中二階の梯子を、ギシリ、ギシリと踏んでいった。

「はてな……」と、梯子をあがりながら一つの疑念――「どこかで見たことのある男だが? ……ただの鏃師ではない、たしかにどこかで? ……」と、しきりに思いなやんだが、とうとう、中二階へあがるまで考えだせなかった。

卜斎にいわれたまま、押入れから蒲団をだして、そのうえに身を横たえながら、膝の槍傷を布でまきつけていると、また、すぐ下の土間であらあらしい声が起りはじめた。

「野郎、どうあってもいわぬな! いわなければ、こうだッ」

弓の折れがヒュッと鳴ると、蛾次郎がオイオイと声をあげて泣きだした。まるで七つか八つの子供が泣くような声で泣いている。

「いいます、親方、いいますからかんべんしてください」