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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
――その八風斎がこの裾野へ巣を作ったところをみると、さては、野心のふかい柴田勝家、はやくも天下をこころざす足がかりに、この一帯へ目をつけたものだろう。武田伊那丸といい呂宋兵衛といい、また秀吉の手の者が入りこんだことといい、いちいち徳川家の大凶兆。こりゃ、裾野一帯いよいよゆだんのならぬものばかりだ……」
半助は、耳を畳にこすりつけて、さらに、階下の声を一語も聞きもらすまいと息をのんでいた。と、下ではまた卜斎の声で、
「なに? ではその竹童という童に、二十本の松明をくれて、そのかわりに鷲にのせてもらったというのか。やい! 泣きじゃくってばかりいたのではわからぬわい。はっきりと口をきけ」
「そ、そうなんです……」
ベソをかきながら答えてるのは蛾次郎の声だ。
「松明を持っていったら、そのお礼に大きな鷲の背なかへ乗せてくれましたから、白旗の森の上から空へあがって、五湖や裾野の上をグルグルとまわってまいりました」
「そうか、それでしさいがわかった」
と卜斎はうなずいて、なお、竹童のようすや、鷲のことなどをつぶさにただしたから、蛾次郎はゆるされるのかと思っていると、荒縄で両手をしばりあげたまま、松明をぬすみだした物置小屋のなかへ三日間の監禁をいいわたされてほうりこまれてしまった。