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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
なれるにしたがってそろそろ尻尾をだしてきた蛾次郎は、宿場人足がよりたかって、うまそうに立ち食いしている餅屋の前へくると、ぎょうさんに、腹をかかえてしゃがんでしまった。
半助はにが笑いして、いくらかの小銭をだしてやった。それをもらうと、蛾次郎は人ごみをかきわけてふところいッぱい焼餅を買いもとめ、ムシャムシャほおばりながら歩きだした。
間もなく、ふたりのまえに見えた向田ノ城。
ここの砦には、富士、庵原、二郡をまもる徳川家の松平周防守康重がいる。菊池半助は、その人に会って、じぶんが探知した裾野の形勢をしさいに書面へしたため、それを浜松の本城へ、早打ちで送りとどけてもらうようにたのんだ。
書状の内容は、徳川家の領内である富士の人穴を中心に、裾野一帯の無人の広野に、いまや、呂宋兵衛だの、伊那丸だの、あるいは秀吉の隠密、柴田勝家の間者などが、跳梁して、風雲すこぶる険悪である。はやく、いまのうちに味方の兵をだして、それらの者を、掃滅しなければ一大事で。――という意味のものであった。
その密談のあいだに、
「ちぇッ、ばかにしてやがら」
城内の一室で、プンプンしていたのは蛾次郎である。