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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「は」

といったが、ふたりの面はとうわくの色にくもった。

じぶんたちが独断で、八風斎を本陣へつれてきたのがわるかったか。伊那丸は対面無用といったまま、耳もかさないのである。また、八風斎のほうでも、あくまで、会わぬうちは、この雨ヶ岳をくだらぬといい張って、うごく気色もなかった。

忍剣と小文治は、なかに立って板ばさみとなった。八風斎はだだをこねるし、伊那丸はきげんがわるい。これでは立つ瀬がないと、いまも民部に、苦しい立場をうちあけていると、ふいに、帳のかげから伊那丸の声で、

「民部、民部やある」

としきりに呼ぶ。

「はッ」

とりいそいで、幕のなかへ姿をいれた小幡民部は、ふたたびそこへ立ちもどってきて、

「よろこばれよご両所、にわかに若君が、八風斎に会ってやろうとおおせだされた。御意のかわらぬうち、いそいで、かれをここへ」

といった。

間もなく、上部八風斎はあなたの仮屋から、忍剣と小文治にともなわれてそこへきた。迎えにたった民部は、そも、どんな人物かとかれを見るに、鼻かけ卜斎の名にそむかず、容貌こそ、いたってみにくいが、さすが北越の梟雄鬼柴田の腹心であり、かつ攻城学の泰斗という貫禄が、どこかに光っている。