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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页
「小さき敵に目をくるるな、心もとない大軍の出動とやら、だれぞ、はようもの見せい!」
「はい、かしこまりました」
こたえた声音は意外にやさしい、だれかとみれば、伊那丸のそばから、蝶のように走りだしたひとりの美少女、いうまでもなく咲耶子である。
見るまに、物見の松の高きところによじのぼって、梢にすがりながら、片手をかざし、
「オオ、見えまする! 見えまする!」
「して、その敵のありどころは」
松の根方から上をあおいで、一同がこたえを待つ。
上では、緑の黒髪を吹かれながら、咲耶子の声いっぱい。
「天子ヶ岳のふもとから、南すそのへかけて、まんまんと陣取ったるが本陣と思われまする。オオ、しかも、その旗印は、徳川方の譜代、天野、内藤、加賀爪、亀井、高力などの面々」
「やや、では呂宋兵衛が人穴城をでたのではなかったか。してして軍兵のかずは?」
「富士川もよりには、和田、樋之上の七、八百騎、大島峠にも三、四百余の旗指物、そのほか、津々美、白糸、門野のあたりにある兵をあわせておよそ三千あまり」
「その軍兵は、こなたへ向かって、すすんでくるか?」
「いえいえ、満を持してうごかぬようす、敵の気ごみはすさまじゅう見うけられます」