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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

「少年倶楽部」1925(大正14)年5月号~1928(昭和3)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 页

青空文庫

「知らないよ。そんなことは、おまえはいったいなにものだ」

「おれかい、おれはさ、もと鼻かけ卜斎という鏃鍛冶のとこにいた、人無村の蛾次郎という者だが、どうも卜斎という師匠が、やかまし屋で気にくわないから、そこを飛びだして、いまではあるところの大大名のお抱えさまだ」

「バカッ」

「ア痛ッ。こんちくしょう、な、な、なんでおれをなぐりやがる」

「蛾次郎、いつきさまにひまをくれた」

「えーッ」

「いつ、この卜斎が、暇をやると申したか」

「あ、いけねえ!」

蛾次郎が、くるくる舞いをして逃げだしたのも道理、それは、雨ヶ岳からおりてきた当の卜斎、すなわち上部八風斎であった。

「野郎!」

ばらばらッと追いかけて、蛾次郎の襟がみをひっつかみ、足をはやめて、人無村の細工小屋へかえってきた。

「親方、ごめんなさい、ごめんなさい」

「えい、やかましいわい」

「ア痛え、もう、もうけっして、飛びだしません、親方ア、これから、気をつけます。か、かんにんしておくんなさい……」

わんわんと手ばなしで泣きだした。もっとも、蛾次郎の泣き虫なること、いまにはじまったことではないから、その泣き声も、たいして改心の意味をなさない。